003
ベンツの人
コラム155(2003/12/15&22合併号)より

 私が勤務している会社のショールームで、以前ショーウインドーの造作作業をしていた時のことである。
 ショーウインドーの中で作業をしていたら、ある客がショールームの前に自動車で乗り付けてくるのが見えた。そして、車から降りてくると、ウインドーの中で仕事をしている私の姿に気がついたらしく、外で手招きをしているのだ。私はなんだろうと思って表に出ていき、その客の話を聞いたのだ。その内容はつまり「私はこの車に乗ってきました。店に用事があるので、店の前に駐車したままにしておくが、仕事の邪魔になるようなら自由に移動して下さい。キーはあなたに預けておきますから。」というような内容だったのだ。まあ、普通ならこういう言い方をするのだろうが、実はその客はこのような意味の事を私に伝えるのに、ちょっと変わった言い回しをしていたのである。
「私はベンツに乗ってきたんですけどー、あのベンツ、店を見ている間、停めさせといてくれる?あのベンツが仕事の邪魔になるようだったら、動かしておいてくれるかな?ベンツのカギは君に預けておくからさ。」
この人、ホントに自分の車を必ず「ベンツ」と言うのである。確かにその車はベンツだったから間違いではないけれど、でも、絶対に「車」とは言わないのである。その人にとっては「ベンツ」は「ベンツ」であって、決して「くるま」などという言葉で他の自動車と十把一からげにされることは許されないことなのだ。
でもねぇ〜。邪魔だったら動かしていいって言われたって、ぶつけでもしたら大変なことっスよ。
確かに邪魔だったけど、動かしませんでしたね。ハイ。




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